特定保健指導における一考察


 平成20年4月よりメタボリックシンドロームに着目した保健事業として、特定健診・特定保健指導が義務づけられた。
5年目に入り、対象者である壮年期の特徴を踏まえて様々な課題も見えてきた。
第一に、対象者の個人個人に合わせた柔軟な支援がなされているか、第二に、保健指導が行き届くシステム(環境)が構築されているか、であろう。
 今回は、第一の課題について、少しまとめたいと思う。ある学術雑誌にも書かれていたが、特定保健指導の初回面談時に難しさを感じる対象者には、「一応参加型」、「不平不満型」、「あきらめ型」の大きく三つに分けられる。
 「一応参加型」は、声をかけられたので、一応面談には来たが、さっさと話を聴いて早く帰りたいと思う。一見人当たりがよく、素直に聴いているようだが、支援者の話に、深く考えることもないタイプである。このような場合、支援者は、対象のレベルに合わせて、関心を向けることから始めなければならない。そして、半歩ずつでも前進できるよう、きめ細かく関わりをもつことが必要であろう。
 「不平不満型」は、特定健診・特定保健指導の制度に不満があり、生活習慣の改善にむけた行動変容にも負担感がある。このようなタイプは、一旦納得してもらえれば、かなりストイックに健康行動を実行してもらえるので、まず支援者は、対象者の声に耳を傾け共感し、不平不満を解消してあげることが大切である。
 「あきらめ型」は、これまでも何度が減量に取り組んだが、目標に届かず、毎年毎年同じことを言われ、うんざりしている。
メタボリックシンドロームの状態では、自覚症状もないので、疾病の怖さを実感することもなく、健康であることの明確な目標も持てない。支援者から単に励ましを発するだけでは、解決しない。専門的知識だけはすでに持っている人も多いので、何のために健康が必要なのか、人生の目的から語ることが大切と思う。
 いずれにしても、30分の限られた面談時間で、これらのことを解決するは容易なことではない。今後も支援者に対する教育と支援者の自己研鑽は、継続していかねばならないと強く感じている。

(文責:加藤洋子)

強い思いを持ってデータをみることで得られる幸運


学生時代、実験の結果をグラフにすると、ある現象が捕まえられた場合には、美しいと感じる曲線が得られ、そうでない時は規則性もなく、美しいとは感じられない線が現れる事を経験しました。
最近、医療費と健診データの分析ばかりしているので、研究をしていた学生の頃の感覚が蘇ってきます。
企業健保のデータと地方自治体のデータでは、描ける線が全く異なります。また、男性と女性でも大きく異なります。
それよりも私が驚いたのは、健診をしている人としていない人の線の違いです。
「成果は行動によって決定される。故に、行動なしは成果なし」という言葉を先輩から教えて頂きましたが、本当にその通りだと実感します。「健診をする」と「健診をしない」は典型的な行動のあり・なしの差です。健診の有無にあまり影響を受けないのは高血圧性疾患でした。これは、国保では性差の影響も少なく圧倒的に加齢の影響を受けますが、企業健保では対象年齢が若い方にシフトするので性差の影響を受けます。このように、様々なデータを片っ端からグラフにしていくと、グラフ化する前には想像もしなかったような現象が、美しい曲線として現れ、私に「ここが重要なポイントです」と教えてくれます。
「因果応報」が全てに通じるとは思いませんが、予防可能な病気の発症に関しては当てはまることが多いと感じます。なぜ、この人やこの集団は病気になって、こっちはならなかったのだろうか?考えながら数字を処理してグラフをいつくか作ると、「なるほど!」と驚く程美しい曲線となって現れてきます。
何かを一生懸命行なっている人は感性が鋭くなっているので、普段の何でもない現象が大きな発見であることに気づく幸運「セレンディピティ(serendipity)」を持つと言われます。雑菌(アオカビ)が混入したシャーレから世界中の人の命を救うことになるペニシリンの発見はその代表でしょう。
「病気になる人を何とか食い止めたい」「前期高齢者を病気にさせないようにしたい」「現役社員の死亡をゼロにしたい」この強い思いが健保における「セレンディピティ」をもたらすのではないかと確信し、今日も美しい曲線探しをしています。
ちなみに、市町村国保では糖尿病・虚血性心疾患・脳梗塞・透析の医療費は圧倒的に健診行為の影響を受けます。

(文責:鈴木誠二)

発症と重症化の未来予測


特定健診・特定保健指導が導入されて5年目となる。私なりに、この仕組みを総括してみた。
改良すべき点はいつくかあるが、私が取り上げたいのは「問診票の項目」の内容の良さである。設問のバランスが良く、この内容で十分に本人の思考や行動が反映され、健康思考や健康行動を予測する上でその精度を上げてくれる。このことに気づいたのは、ウェル・ビーイングで活用している健診データ管理システム「Wellくん」に法定健診データ入れた場合と、特定健診データを入れた場合とでは、その方の発症リスクが大きく変わるからであった。「その人に起こる未来の病気は検査値の数値だけでは決められない」と思った瞬間である。
医療費や既往歴や服薬状況は既に起こった過去の健康情報であり、健診データはその人のその瞬間の健康情報である。私たちは複数の過去の情報と現在の健康情報を結んで未来に延長させたところで、その方に対する発症予測を「Wellくん」のシステム上で行なっている。当たり前のことかもしれないが、未来予測はこの方法しかないとさえ考える。
前期高齢者に対する訪問を中心とした発症予防策は、現在、医療費という過去データのみで行なっているところが少なくないが、その方々の発症と重症化の未来予測は特定健診・特定保健指導と同様の方法で行う以外、私には思い浮かばない。単に使用している薬をジェネリックに変えるだけならば、高額な面談の必要はなく、発症予防・重症化予防の方がはるかに前期高齢者納付金の削減には効いてくるからである。

(文責:鈴木誠二)