日本人の「甘えの構造」と保健事業 取締役会長 鈴木誠二 


12月。また、今年も1年が終わります。去年の12月も同じことを思ったのではないでしょうか?健保連の平井会長が「なんとか知恵を絞って、爪に火を灯してでも保健事業活動を行うことが、医療費適正化につながる」と訴えている効果的・効率的保健事業活動は行えたでしょうか?
世の中が大きく変化をしている時は、これまでの考え方や制度も変えないと「現状に合わない」施策となって、ムダを作ってしまいます。
11月27日の日経新聞の朝刊の社説「医療・年金の高負担から若者を救え」は今の医療制度に対する警鐘を鳴らしています。まさに「Before it’s too late !」です。この中で、「70~74歳の窓口負担を本則の2割にする」と「年金の財政構造を積立方式に移行させる案」を課題があるとしながらも肯定的に取り上げています。
この「考え方」に、私は賛成です。
理由は、土居 健郎の名著に書かれてあるように、私たち日本人には本質的な「甘えの構造」が存在していると考えるからです。この考えを持っている限り、何かをしてくれる人がいる限り、自ら何かをしようとはしないと思うのです。
多くの患者は、病院に行けば病気が治ると思って行きますが、対応する医師は違います。彼らは医療の不確実性を実感し、治るか治らないかは100%ではない確率論で論じられることを知っているからです。薬や手術は患者が治るとすることを手助けはしても、それ自体が直すのではないことも。
私たちは、健診データと問診データからその方の健康状態をダイナミックに評価するようにしています。すると、服薬し始めたとたんに健診データが悪化する方がいます。通院して服薬するようになると安心するのでしょう。前よりも生活習慣が悪くなって、治療している血圧ばかりか、糖代謝も脂質代謝も異常をきたすようになっていました。「薬を飲んでいるからもう大丈夫」「病院に通って治療をしているから大丈夫」と生活習慣が乱れたのが原因でした。慢性腎不全も「食事療法を守らないと透析になってしまいますよ」と言われているうちは厳しい食事制限にも耐えて、腎機能の低下は抑えられるのですが、透析となって何でも食べられるようになると、残っている腎機能は一気に低下してダメになります。
人は自らのヘルスリテラシーを高めて、薬物療法や手術の限界を知らなければ、寿命を全うすることは難しいと言わざるを得ません。生活習慣病の主原因である「血管を傷める」とはどういうことなのか?血管を傷めるとどうなるのか?血管を傷めないようにするにはどうすればよいのか?を知って、血管を傷めないような行動(健康行動)を取ることこそ予防医療であり、そうさせることが保健事業であると考えます。
従って、医療保険者が行うことは、老化に伴って血管が傷みやすくなっている人にそのことを伝え、健康行動が取れるように支援をすることになります。このことは、本人に指一本触れることなく行うことができ、詳しい医学知識がなくても行えます。
その証拠に、私が先月お会いした方はHbA1cが10以上の社員を集め、「このままだと、就業制限をかけざるを得ません。どうするかは皆さんが決めてください。」とだけ、言ったそうです。すると、ずっと通院していてHbA1cが下がらなかった7名全員が10以下になり、5名は8以下になったそうです。「具体的に『○○してください』と方法を示したのですか?」と聞くと「いいえ。彼らは何をしたら良いのかは耳にタコができるくらい聞いて知っていますから。」との返答でした。
今までHbA1cを下げる行動を取っていなかったのは医師や薬に根拠のない期待をして、甘えていたことは明確であると思いました。
健康行動は本人が取らないと成果は取れません。そのことを本人任せにするのではなく、本人に上手に介入して、気づきとやる気を与えることが重要です。気づきとやる気を与えることは医療ではないので、それが上手な方に依頼するのが最も効果的です。
来年の12月、また同じ想いにならないよう、これまでと違う選択をしてみませんか?

(文責:鈴木誠二)