健診の目的は何か?


「健診を受けないとボーナスカット!」が話題となっています。なかなか保健事業の理解が得られない健保としては、事業主がここまで社員の健康管理に取り組んでくれるのは羨ましい限りです。
ところで、保健事業費の大部分を占める「健診」を私たちは「内容はともかくとして毎年やること」あるいは「全員が毎年受けるべき」として考えてはいないでしょうか?
集団健診の目的は「集団の健全性維持を目的とした病気の早期発見・早期治療です。では、仮に100%の人が健診を受けたら、95%の健診受診集団とどれほどの差が出るのでしょうか?
市町村国保の医療費と健診の受診・未受診の関係を解析していた時に、私は面白い現象に気づきました。年齢別・性別・疾病別の一人当たり医療費を比べると、健診を毎年受ける人は、健診を受けない人の半額以下でした。そして、その差は若年ほど大きく、女性よりも男性で大きな差の出ることがわかりました。しかし、最も高額な高血圧性疾患関連医療費は時々健診する人と毎年受診する人では殆ど差がありませんでした。
この現象は自動車や工場の生産設備のメンテナンスの仕方と故障率との関係に似ているかもしれません。
今、胃がん健診ではABC検査法が注目され、採用する健保が増えてきました。この検査法はピロリ菌の除菌経験のない人が、ピロリ菌もペプシノーゲンも(-)なら、5年~10年間は胃がん健診を受けなくても胃がん発生のリスクが極めて低いことを示した画期的なリスク区別検査法(診断検査法ではないところが重要です)です。ABC検査法とは「極めて胃がん発生率の低い(-)(-)の人には原則5年~10年間、胃がん健診を行わない。その代わり、胃がん発生率が高いと考えられるピロリ菌(+)ペプシノーゲン(-)の人には除菌を行い、(+)(+)や(-)(+)の人には内視鏡を使って精査する」というこれまでにない費用対効果の発想を取り入れた画期的な検査法だと私は思います。
健診率がまだ低く、景気も良かったころ、国も大手企業も「健診は毎年受けるべきである」「我社は○○万円もする人間ドックが無料で受けられます。それ程社員を大切にする会社ですので優秀な方は我社にいらして下さい」と「健診は受けないといけない論」を振りかざしてしまったのではないかと、私は感じます。しかし、それだけ熱心に行う1次健診とは裏腹に、陽性・擬陽性者の2次健診率は恐ろしい程低いのが実態です。この話をアメリカ人に話したら、「2次健診に行かないなら、何故1次健診を受けたのか?私には理解できない。」と言われました。
日本人によくある「手段が目的化した」のかもしれません。
参加することが目的の選手はオリンピックでは勝てないのと一緒です。1次健診100%が目的化する向こうには「私は毎年健診を受けているから大丈夫」という誤った健康観と健康意識とそれに基づいた不健康行動が待っています。胃腸薬や二日酔いの薬を飲んで暴飲暴食の宴会乗り込んでいくサラリーマンが頭に浮かぶのは私だけでしょうか?

(文責:鈴木誠二)