コラム

ウェル・ビーイングが取り組む多彩なテーマを、現場の知見やデータに基づいて発信するコラムです。
健康経営・福祉・医療・働き方など、実務に役立つ考察や提案を通じて、個人・組織・社会の課題解決に貢献する視点をお届けします。

がん関連医療費を抑制する保健事業

がん関連疾患の医療費

健保の皆さんは保険事業の領収書ともいえる「レセプト」をどの程度活用しておられるでしょうか?

毎月、支払基金から送られてくるレセプトには対象者の医療費がまとめて掲載されていますので、複数の疾患の医療費が発生した場合は厳密さを欠きますが、がん治療は高額であるため、201~210の疾病コードが記されているレセは「がん関連疾患」と考えて処理をしても良いかと考えます。

このようにして、疾病コード別に年間の医療費を眺めると、五大がん(日本人に多く、死亡数の大半を占める「肺・胃・大腸・肝・乳」の5つ)が上位にくることに気づきます。

 

健康保険組合ががん予防を徹底して行わない(行えない)理由

しかし、がんの検診方法には様々なものがあり、その後のデータ管理やフォローの仕方はさらに複雑です。また、健診の根拠となる『労働安全衛生法(通称:安衛法)に基づく定期健康診断項目』には、胃のレントゲン/内視鏡検査、便潜血二回法、腹部エコー、胸部エコー/マンモグラフィーの文字が見当たらないのです。そうです、法的拘束力をもつ安衛法上ではがん検診を行う義務がないのです。

ある大手企業の統括産業医と話をしたとき、その企業には産業医が5名もいるのに「健保が行っているがん検診のデータを私たち産業医は見ないようにしています。見ると、その個人の健康上のリスクを知ることになり、関わらざるを得なくなるからです。私たちにそのような時間はありません」と言い切ったことを私は忘れることができません。

健保はがん検診に対するある程度の補助は出しますが、その結果に対する事後措置(二次検診を含む)は『自己責任』としてフォローしないので、がんの重症化予防/がんの医療費抑制に最も有効な「がんの早期発見/早期治療」が機能しないのです。

 

がんは普通の病気になった

過去、難病であり、致死の病と称されたがんには「がん=死」のイメージが付きまとい、本人への告知も憚られるほどでした。産業医でさえ「関わらない」と決める程の疾患に、医療専門家でもなく、個人情報保護法に過敏な健保スタッフが距離をとりたがるのは当然のことと想像します。

先日、東京都の「がん診療連携拠点病院」にもなっている『がん研有明病院』の名誉院長の佐野武先生の講演をお聞きし、目から鱗が落ちる思いでした。衝撃だったのは、慎重な表現に終始する医師であるにも拘らず「がん治療は進んでいて、がんは治る病気になった」「がんは早く見つけて上手く治すのがポイント。費用に見合う分だけがんは良く見つかる」「発見されるがんの半分以上は他疾患における①エコー②CT③内視鏡といった精密医療機器での検査でみつかる」「がんの情報に溺れないことが重要。がん情報は『がん情報センター』一択がお勧め」「医師に聞きたいことは事前にメモし、医師からの説明は許可をもらって録音する」等々です。極めつけは「転移していないがんは、切り取れば治る」でした。がんは時代を経て、今、「治る病気」になったことを感じます。

 

そして健保が行うこと

健保と地方自治体とに分散するがん検診の「情報の一元管理」をどうするか?は大きな問題ではありますが、今すべき重要なことは、健保が怖がらずに「がん検診を推奨すると共にがん検診情報を管理する」ということです。理由はがん関連疾患の医療費を抑制する方法は「早期発見・早期治療」以外にない(ステージが低い程、死亡率も医療費も低い)からです。

日本人にはがんの一次検診をうけて陽性/擬陽性になっても二次健診に行かない人が少なくありません。このことを米国人の友人に話すと「ではなぜ一次検診を受けたのだ?全く理解できない!」言われました。

がんの確定診断は「病理」でしか行うことができません。従って、白黒はっきりするまでは、検査を受けなければならないことを加入者に理解して頂き、「早期発見で、転移していなければ、がんは完治する時代がきた」事も伝えるべきだと思います。

がんは加齢に伴って増える病気で、前出の佐野先生の言葉を借りれば『がんは長生きの税金』だそうです。雇用延長が一般化する中、前期高齢者にがんが見つかると、それは高額な医療費だけでなく、それに係数をかけた『前期高齢者納付金の大幅アップ』としても現れます。

健保の健全経営の観点からも、がんの早期発見・早期治療に対する健康投資は、大きなリターンが見込める優先度の高い保健事業と考えます。

文責:株式会社ウェル・ビーイング取締役会長 鈴木誠二

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