「まずやってみる」と「慎重にして行わない」ことを検証する


人の行動を止めるのは「不安と迷い」だと言われています。
先日、私が住んでいるマンションの総会がありました。エレベーターの内装が傷んでいるので修繕する事が昨年の総会で可決されたのですが、予算が執行されなかったことに対して質問が出ました。答弁に立った代表の方はこう言いました。「住民の意見を聴いて、皆がこれなら良しとするものにするためのガイドラインを作ろうとして時間がかかっています」と。しかし、彼はスケジュールも述べず、「いろんな考えの方が住んでおられますので、その方々が満足するようなものにしたい」を連呼していました。
これを聴いていて、このロジックでは5年かけても決まらないし、彼は自分の任期のうちには決定できないと思っているとさえ感じました。理由は、それ以外の案件に関しても常に、「誰かから苦情が来たらどうするのですか?」「それが最善であるという証明をどうするのですが?」と100点満点でないのに実施するのはいかがなものかという姿勢だったからです。
これは彼の思考の癖です。未来は不確実な要素が多く読みきれないのが実態です。従って、よりリアルで確実なものとして扱うために「まず、やってみる」事が何よりも重要です。それによって初めて100点満点ではなくても、満点からどの方向にどの程度離れているのか?が現実のものとして把握できるからです。これがつかめれば、データに基づいた話ができるので、関係者に対する説明も容易になり、満点を得るための計画や実行もあっという間に行えます。
ドンピシャの前例がなかったり、不確定要素が含まれる課題解決のポイントは「1日~1週間、本気で情報を集め、考え、やってみる」です。
最初にやって得た結果は、理想とは若干ズレているのが一般的ですので、データに基づいてすぐに修正し、再度行うのです。賞味、2回目の行動の結果が出るまでの時間でほぼ狙い通りの成果が得られるでしょう。
故松下幸之助氏は若い人が提案を持ってくると「やってみなはれ」としか言わなかったそうです。彼は、経験から、「やってみて得られる結果以上に確かなことはない」ことを確信していたからではないかと私は考えます。
私たちは、同意を得るための会議に相当な時間を費やしていますが、多くの人はそれをコストとは認識していません。しかし現実には、同意形成をしている間にも手を打ったら止められる高額保険給付費や前期高齢者納付金が集めた保険料から失われているのです。
全員一致で物事を決めようとする癖のある人はさらに時間がかかって、人数が多ければ多いほど決まらない事が確定してしまいます。何も決まらず、何もしなかったがゆえに失った高額保険給付費や高額な前期高齢者納付金に対する責任はどなたが取るのでしょうか?
私は、決定のプロセスでは選択の対象を可能な限り絞り、①現状を変えることを「チョイスするか?しないか?」②改善策を2つに絞って「どちらをチョイスするか?」③多数決で決めたことは全員ですぐに実行する ことを勧めています。選択の対象の数を最初から増やしてしまうと、お金も時間もかかってしまい、選択に対する迷いのリスクも限りなく増えるからです。従って、私は「膨大な情報の中から、何を根拠にどの情報に絞り込むか?」という能力が複雑系の課題解決では最も重要であるであると考えています。
どちらにしても「最初からの100点満点はない」と思えば気が楽になります。そして、1回目に実施した施策の点数が90点でも70点でも、解答をみて2回目に100点にする確率と時間ははあまり変わらないのですから、しっかり考えられたものであれば、どのような施策でも良いとさえ思っています。
精一杯考え、精一杯行った結果は、一見、慎重を装って何もしない「成さざる罪」よりもはるかに大きい成果や有効な情報をもたらすと考えるからです。

文責:鈴木誠二